結局のところ、肉食・菜食どっちがいいのだろう?
菜食とコリンの関係
前回の記事で、腸内細菌の違いが筋肉量の維持や機能に影響がでること紹介させて頂きました。
腸内細菌と筋肉量と機能との関係についても気になったのですが、実はそれ以上に興味を引いたのは、
「ビーガン食(完全菜食)はコリン不足のために脳の健康に問題が出る」
という部分でした。
この記事の冒頭の英インディペンデントの記事タイトルにもあるように、「菜食主義は、必須栄養素の不足を招くリスクがある」ということが述べられているもので、その栄養素は「コリン」というものです。
この記事では、「脳の健康に」とありますが、特に重要なのは、妊娠している女性の胎児の脳の成長に対して必須の栄養素が「コリン」だといえるのです。
なので、私たち成人の脳に対してこの「コリン」不足が問題になるかどうかは分かりませんが、
コリン不足が認知症と関係するという研究は複数ありますので、成人の脳機能にも多少関与するようです。
そのコリンが、「野菜だけの食事では、大きく不足する」と BMJ(Blitish Medical Journal) に掲載された論文では述べられているのです。
このコリン不足を解消するためには、肉(牛や鶏)などの食材を加えていく必要があるらしいのですが、調べてみると、納豆を含む大豆にも豊富に含まれているようですので、私たちのような日本式の食事ではそんなに強く肉食を意識する必要はないかも知れません。
肉食(特に赤身肉)には乳がんのリスクが高まるという記事も8月の末に書きました。
2019/8/30 「肉食女子は注意した方が良さそうです」
特にコリンが多く含まれる食品は、
・レバー
・卵
・納豆
などです。
このBMJ の研究について、別にアメリカの科学メディア「サイエンス・デイリー」が取り上げていたものをここではご紹介します。
・Suggested move to plant-based diets risks worsening brain health nutrient deficiency
sciencedaily.com 2019/08/29
植物ベースの食事への移行の提案は、脳の健康栄養欠乏を悪化させるリスクがある
植物ベースの食事を基本とするビーガン(完全菜食主義)に移行することは、地球環境のためにはとても素晴らしいことだ。しかし、ビーガン食が、脳の健康に関与する必須栄養素の摂取量の低下を招き、脳の状態を悪化させるリスクがあると医学誌 BMJ で医学博士が警告した。
栄養学および生物医学科学が専門のエマ・ダービーシャー博士 (Dr. Emma Derbyshire)は、ビーガン食は、必須栄養素のひとつであるコリンが不足する可能性があることを指摘する。
コリンは、特に胎児の発育中の脳の健康にとって非常に重要だという。また、人の肝機能にも影響を与え、コリンの不足は、血液脂肪代謝の異常やフリーラジカル細胞の過剰な損傷に関与すると述べる。
食事からのコリンの主要な供給源は、牛肉、卵、乳製品、魚、鶏肉等であり、植物性では、ナッツ、大豆、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に含まれているが、含有レベルは、動物性よりはるかに低い。
アメリカ医学研究所は、コリンの重要性を認識し、1998年に、1日の推奨摂取量を規定した。それによれば、必要最低量は、女性の場合は 425 mg /日、男性の場合は 550 mg /日となっている。
コリンは、胎児の発達に重要な役割を果たしている栄養素であるため、妊娠中の女性は、 450 mg /日、および授乳中の女性の場合は、550 mg /日となっている。
2016年、欧州食品安全機関も同様の要件を公開したが、しかし、北米、オーストラリア、およびヨーロッパで行われた全国的な食事に関する調査では、習慣的なコリン摂取量の平均値は、これらの推奨量を満たしていなかった。
ダービーシャー博士は、以下のように言う。
「コリン摂取量が基準に達していない理由は、おそらく、現在の食事から肉が減少し、植物ベースの食事に向かう人が多い傾向があることかもしれません」
英国では、コリンの推奨量が規定されていないが、このことに、危機感を抱く。
博士は以下のように述べる。
「コリンの重要な生理学的役割が医学的に承認されていることを考えると、英国当局が、長い間、コリンの重要性を見過してきた理由がわかりません。英国では、コリンは、食品組成データベースや、主要な食事調査、および食事のガイドラインから除外されています」
「食事から必要なレベルのコリンが摂取できていない場合は、特に、妊娠している女性の場合、コリンの摂取は、胎児の発達に重要であることから、栄養補助をすることが必要となるはずです」
ここまでです。
「抗コリン薬」を服用している高齢者に認知症の発症率がとても高い
実は、現在の西洋薬の多くが、「コリンを遮断する」ことで作用するのですが(抗コリン薬といいます)、この「コリンを遮断する薬」を服用する高齢者たちに「認知症の発症率がとても高い」ことが示されていました。
「コリンを遮断する薬」などというと、難しく感じられるかもしれないですが、以下のような処方薬や市販薬の多くが「コリンを遮断する薬」です。
・かぜ薬(総合感冒薬)
・鼻炎薬
・胃腸薬
・抗不安剤
・抗うつ薬
このように非常に一般的なものです。
アメリカの研究では、このような日常的な薬を「1年間に9日飲むと、認知症のリスクが上がった」という調査報告もあります。
そういうわけでコリンというのは、赤ちゃんの脳の成長にも大事ですし、高齢者の認知機能の維持にも大切なものだということがわかってきます。 2012年にノルウェーで行われた研究では、「コリン不足の人ほど認知力が低い」という結論も出ています。
それだけに、確かに極端にコリンが不足することには、問題もあるのかもしれません。
ただ、先ほど書きましたように、納豆や豆腐を含む大豆からも量は少ないそうですが摂取できるので、日本の食事でも問題はないと思います。
それでは、このブログのタイトルのように、肉食と菜食はどちらが良いのか迷う記事も紹介します。
18年間の追跡調査における肉食者、魚食者、菜食者の虚血性心疾患と脳卒中のリスクの比較
オックスフォードの研究の結果より
目的:
菜食主義と虚血性心疾患および脳卒中のリスクとの関連を調べること。
被験者:
英国の 4万8188人の虚血性心疾患、脳卒中、または狭心症(および心血管疾患)の病歴のない人たちを、3種類の異なる以下の食事グループに分類した。
・肉食者のグループ(魚、乳製品、または卵を食べたかどうかに関係なく、肉食者:人数は 2万4428人)
・魚食者のグループ(魚を食べるが肉類は食べない:人数は 7506人)
・ビーガンを含む菜食主義の人のグループ(人数は 1万6254人)
主な結果の測定値:
被験者たちの 2016年までの記録を通じて特定された虚血性心疾患および脳卒中の事例。
結果:
追跡調査期間は 18年1ヵ月で、その期間内に、2820件の虚血性心疾患と 1072件の脳卒中 (このうちの 519件が虚血性脳卒中で、300件が出血性脳卒中)が記録された。
社会人口学的および生活習慣の因子を調整した後、虚血性心疾患の率は、肉を食べる人たちの群よりも、魚を食べる人で 13%低く、菜食主義の人たちで 22%低かった。
対照的に、菜食主義の人は、肉食の人よりも脳卒中の発生率が 20%高かった。菜食主義の人は、主に出血性脳卒中の割合が高かった。なお、脳卒中の関連性は、疾患の危険因子をさらに調整しても減衰しなかった。
結論
魚を食べる人と菜食主義の人は、肉食の人より虚血性心疾患の発生率が低かった。しかし、菜食主義の人は、出血性脳卒中の発生率が他の群より高かった。
ここまでです。
結論は、
「菜食主義の人たちは、虚血性心疾患に関しては肉食の人たちより発症率が大幅に低かった。しかし脳卒中になる率は肉食の人たちより大幅に高かった」
だそうです。
ただ、以前の研究報告で
「菜食主義の人たちは虚血性心疾患と脳卒中のリスクが高い」
という真逆のデータもでているようなので、判断に困りますが。
まぁ、食事に関しては個人の考え方であったり嗜好などもあるので、一方的にどちらが良いとは言えないのですが、個人的には人間の歯の構成(臼歯、切歯、犬歯)をみる限り、臼歯の数が一番多いことからも、少なくとも穀物などの植物性の食べものが7-8割、残り2-3割が動物性の食べものから摂るのが、自然の摂理にかなっているのかな、とは思います。
特に昔の日本人は、数千年もの間肉食はほとんどなく、戦後のたった70年ほどの時間で食習慣が西洋化してしまいました。
しかし、長年伝えてきた日本人のDNAは今でも生きているはずですので、その食文化からあまりにもかけ離れた食事では、身体に合わないのかなぁ、と思います。