ストレスで脳が損傷することから回復させるために私たちができること
過剰なストレスを日常的に受け続けると心身に様々な影響が出ることは良く知られています。
自分自身気がつかず、知らず知らずのうちにダメージを受けることもあるため、ストレスを上手にコントロールすることが大切です。
もちろん、ストレスそのものをなくすことは出来ませんし、適度なストレスはその人を成長させ、次回同じようなストレスを受けたとしても、それに打ち勝つことのできる能力を獲得する事は人生において必修のものであるとも言えます。
物事に対して自分でコントロールできる能力(ストレスの原因を解決することやストレスを受け流すことのできる力)がレジリエンス(回復力)の高さにつながります。
しかし、自分自身ではコントロールできない事象(例えば、今回のようなコロナウイルスの流行など)、に遭うことによって受けるストレスは、私たちの脳に回復不能なダメージを与えることもあります。
今回ご紹介する記事は、ストレスによって脳がどのような働きをし、ダメージを蓄積させるのか?
そして、それを防ぐにはどうすればよいのか?
といった内容です。
このような脳の基本的な働きを知ることで、私たちはどのように行動すれば良いかの指標となるでしょう。
慢性的なストレスが脳をどのように変化させるか、そして損傷を元に戻すためにできること
・How chronic stress changes the brain,and what you can do to reverse the damage Neuro Science (2020/03/14)
ここからです。
慢性的なストレスは、人の健康と精神的な健康に影響を与える。COVID-19ウイルスにより、慢性的なストレスは世界中で増加している。研究者は、慢性ストレスの一般的および心理的な健康への影響を調べ、ストレスレベルを抑えるために採用できるいくつかの方法を提案している。
多少のストレスは私たちの日常生活の中では当たり前であり、それは私たちにとっても良いことだ。ストレスの多い出来事を乗り越えることで、私たちはレジリエンス(回復力)を高める事が出来る。
しかし、例えば結婚やパートナーシップの破綻、家族の死、いじめなどが原因でストレスが深刻であったり、慢性的であったりする場合は、すぐに対処する必要があるだろう。
繰り返されるストレスは、脳に大きなダメージを与え、体内の持続的な炎症を引き起こす大きな引き金となる。慢性的な炎症は、糖尿病や心臓病など、さまざまな健康問題につながることにある。脳は通常、血液脳関門によって循環分子から守られている。しかし、繰り返しのストレスを受けると、このバリアは守りきることが出来ず、循環する炎症性タンパク質が脳に入りこんでしまうことになる。
脳の海馬は、学習と記憶にとって重要な脳領域であり、そのような行為に対して特に脆弱である。ヒトの研究は、炎症がモチベーションや精神的な敏捷性に関連する脳システムに悪影響を及ぼすことが示されている。
また、慢性的なストレスが、コルチゾールやコルチコトロピン放出因子(CRF)など、脳内ホルモンに影響を与えていると言う証拠もある。コルチゾールの長期にわたり高レベルにさらされることは、気分障害および海馬の収縮に関連し、不規則な月経周期を含む多くの身体的問題を引き起こす。
気分、認知、行動
慢性的なストレスがうつ病につながることは良く知られており、世界的に障害の主な原因となっている。また、うつ病は再発性の疾患でもあり、うつ病を経験したことのある人は、特にストレス下で、将来的にうつ病を再発する可能性が高まる。
これには多くの理由があり、脳の変化と関連がある。ストレスホルモンにさらされ続け、炎症が続くことで起こる海馬の縮小は、健康な人よりもうつ病の患者に多く見られる。
慢性ストレスは、最終的にセロトニンを含む認知や気分を調節する脳内の化学物質も変化させる。セロトニンは気分調節と幸福度に重要なものであり、実際、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、うつ病の人の脳内セロトニンの機能的活性を回復するために使用されている。
睡眠と概日リズムの乱れは、うつ病や不安を含む多くの精神疾患に共通する特徴である。コルチゾールなどのストレスホルモンは、睡眠において重要な調節的役割を果たしている。
そのため、コルチゾールのレベルが上昇すると睡眠を妨げるため、睡眠パターンと概日リズムの回復には、これらの状態の治療アプローチを提供する。
うつ病は大きな影響を及ぼす。私たちの研究では、うつ病が計画や問題解決などの非感情領域と、ネガティブな情報への注意の偏りを生み出すような感情的・社会的領域の両方で認知機能を損なうことが実証されている。
うつ病と不安に加えて、職場での慢性的なストレスやその影響によって、燃え尽き症候群になることもあり、日常生活での認知機能障害の頻度の増加にもつながっている。
個人が職場や学校などで仕事量を増やすことを求められることで、達成感が低下や不安を感じやすくなり、悪循環に陥ってしまうこともある。
ストレスは、合理的な思考と感情のバランスを妨げることもある。たとえば、新型コロナウイルスの世界的な広がりに関するストレスの多いニュースにより、人々は消毒剤やティッシュペーパー、トイレットペーパーを買いだめした。
政府は、在庫は十分にあると安心させているにも関わらず、店はこれらの物資が不足することになった。
これは、ストレスによって脳が「習慣系」に切り替えを強要されるためで、ストレス下では、前脳の基部にある丸い構造物である被殻などの領域がより活性化される。
このような活性化は、買いだめの行動と関連している。また、ストレスの多い状況では、社会的所属の評価や恐怖の学習など、感情認知で役割を果たす腹内側前頭前野が不合理な恐怖を高める。
最終的には、これらの恐怖は、冷静で合理的な意思決定のための脳の通常の能力を本質的に上書きしてしまう。
ストレスを克服する
では、慢性的なストレスに苦しんでいる場合はどうすればよいのだろうか。
幸いにもストレスに対処する方法がある。
たとえば、運動による慢性的なストレスに対する効果が確立されている。運動は抗炎症反応を引き起こすことで炎症に対処する。さらに、運動は、海馬などの重要な領域での神経新生(新しい脳細胞の産生)を促進させる。また、気分や認知力を高め、身体の健康にも効果がある。
ストレスを克服するもう1つの重要な方法は、家族や友人、近所の人など、あなたの周りの人々とつながりを持つことである。ストレスを感じているときには、リラックスして友人や家族と交流することで気が紛れ、ストレスの感情を軽減することができる。
学習はそれほど明白ではく、教育は認知的予備力(長期間、知的刺激を受けてきた人は認知症の発症が遅いが、発症してしまうと進行は速いという仮説で使われる概念)につながる(思考能力の備蓄)、私たちがネガティブなライフイベントが発生したときにもある程度の保護をする。
実際、認知予備力があれば、人々はうつ病や認知の問題に苦しむ可能性が低くなることが分かっている。
他には、マインドフルネスがある。私たちの周囲の世界に気付き、好奇心を持ち、今この瞬間を過ごすことができる。慈善団体にボランティアや寄付をすることは、脳内の報酬システムを活性化し、人生に対するポジティブな感情を促進する。
重要なことは、慢性的なストレスを感じたときに、待つことをすることはいけない。早期発見と早期の効果的な治療が、良好な結果と良好な健康への鍵となる。
気分、思考、そして身体の健康を改善するために、総合的な方法で行動することを忘れないことが大事だ。
そして、ストレスに圧倒されるまで待つ必要はない。最終的には、幼少期から学び、障害を通じて脳を健康を保つことが大切だろう。
ここまでです。
うつになると感情表現が少なくなり、とくに喜びや幸福感など脳の報酬系の脳構造に変化をもたらすことが以前の研究で分かっています。
さらにそのようなうつ病の親をもつ子どもも生まれながらに、その脳の構造が正常な子どもよりも小さくなっていた。
という研究報告を以前のブログで紹介させて頂きました。
うつ病歴のある親をもつ子供は脳のある部分が小さくなっていた
この記事なかで、怖いのはこの部分だと思いますので、ここに引用しておきます。
うつ病と同じように小児虐待も脳に影響を与え負の連鎖を引き起こす
虐待は負の連鎖を引き起こしやすく、虐待された子供が親になると、同様な問題を引き起こしやすいことも分かってきています。
外出自粛によって、家庭内暴力や子どもに対する虐待もかなり増加している、という報道やNHKの特集でも放送されていましたので、みなさんも観たり聞いたりされている事でしょう。
・新型コロナ 外出制限長期化でDV増加 NHK
・子どもの虐待、全国で1~2割増 休校や収入減も影響か 朝日新聞DIGITAL
今、緊急事態宣言の解除が決まったというニュースが入ってきました。
解除後、すぐには以前の生活に戻るわけではありませんが、これでストレスが少しでも減っていけば良いですね。