ゆっくり歩く人は45歳でもその年齢よりも脳と体の老化が進んでいる
前回、ランニングとウォーキングの効果について書きました。
こちらです。
この記事の最後に、
それに歩く速度が速い人は認知症のリスクも下がるそうです。
と書きました。
今回はこの件についての記事を紹介したいと思います。
その前に、みなさんは自分が歩く速度がどれくらいか知っていますか?
一般的な標準の歩行速度はだいたい時速4kmくらいだと言われていますが、結構昔の人の標準的な歩く速度で決めたそうです。
今では、時速5km以上はあるそうです。
ちなみに、不動産情報で良く見かける駅から徒歩○分というのは、分速80mを基準に算出していますが、これは時速に直すと時速4.8kmになります。
ただやはり、歩く速度には個人差があるので、できれば自分の速度を計測しておくとよいかも知れません。
正確な自分の歩く速度を計測するには、はっきりと分かっている距離を歩き、どれくらい時間が掛かったかが分かれば、そこから計算できますよね。
日々の体調によっても微妙に速度が違うので、毎日歩くコースの所要時間を計って記録しておくと、体調管理にも役立つかも知れません。
歩行の遅さは、老化が加速している兆候の可能性がある
ここからです。
長期の研究で、45歳時における単純な歩行テストで老化の兆候が検出でき、3歳時点ですでに歩くのが遅かった子供は、普通の速度で歩く子供とは脳が異なっていたことが分かった。
45歳の歩行速度、特にランニングせずに歩く最速の速度は、脳や体の老化のマーカーとして使用可能。
遅い歩行者は、研究者によって考案された19の測定尺度で「加速老化」の度合いを測ることが出来、彼らの肺、歯、および免疫系は、速く歩く人よりも悪い傾向を示した。
「ここで本当に印象的なことは、これは45歳の人であり、通常このような方法で評価される高齢者ではないということです」とデューク大学心理学部および神経科学のラスムッセン博士は述べる。
研究の対象となった個人が、3歳時点で受けた神経認知テストで、IQ、言語の理解、欲求不満、運動能力、および感情制御に関するスコアは、45歳になったときの歩行速度を予測していたのだ。これは衝撃的だった。
「医師は、70代および80代の遅い歩行者は同じ年齢の速い歩行者よりも早く死亡する傾向があることを知っています。しかし、この研究は就学前から中年までの期間を対象としており、ゆっくり歩くことは老齢の数十年前の問題の兆候であることがわかりました。」
と、イギリス・キングス・カレッジ・ロンドン大学のテリー・E・モフィット教授は話す。
この研究データは、ニュージーランドのダニーデンで1年間に生まれた約1,000人の人々を対象とした長期研究から得られたもので、現在の研究の904人の研究参加者は、調査時の2017年4月から2019年4月に概ね45歳だった。参加者には、彼らの人生全体について、クイズやテストで測定した。
最後の評価のMRI検査では、歩行速度が遅い人ほど、総脳容積が減少、平均皮質厚の減少、脳表面積の減少、脳の小血管疾患に関する小さな病変である、白質「超強度(hyperintensities)」の発生率が高い傾向が示された。要するに、彼らの脳は老化したということだ。
「子供の頃に、彼らの歩行速度と脳のイメージングができなかったことは残念だった」とラスムッセンは言った。(なぜならMRIは彼らが5歳のときに発明されたが、その時には検査をすることはできなかった。)
健康と認知の違いのいくつかは、個人のライフスタイルの選択に関係している可能性があるが、この研究はまた、誰が最も遅い歩行者になるかについての初期の兆候があることを示唆している。
「ここに、我々の後の人生でよりよい健康を送れるのか、を知るチャンスがあるかもしれません。」とラスムッセン博士は述べている。
ここまでです。
歩き方を観察すると、認知機能低下の予測に役立つ
ここからです。
人々の歩き方は、脳だけでなく身体も老化しているサインであること示した
ジャーナル・オブ・アルツハイマー症候群 (Journal of Alzheimer’s Disease)の特別補足として報告した科学者は、歩行障害、特に歩行速度の低下は、将来の認知機能低下のマーカーと見なされるべきだと主張している。彼らは、軽度の認知障害のある高齢者の運動能力と認知能力のテストを提案している。
「認知機能の喪失を予測するために、運動能力と認知能力を評価することの重要性に新たな焦点があります」と、イギリスのウェスタン大学、マヌエル・モンテロ・オダッソ医学博士。
過去20年間の大規模な疫学研究によって、歩行障害、特に歩行速度の低下が認知症の初期段階に存在するか、誰が認知症に進行するリスクがあるかを予測できることが示された。
歩行の微妙な障害は、認知障害および認知症の高齢者でより多く見られ、転倒のリスクの増加とも関連している。
「早期認知症の検出方法を見つけることが重要です」とモンテロ・オダッソ博士は付け加えました。
「将来、人々が著しい記憶喪失を起こす前にAD(アルツハイマー症候群)や他の認知症の診断ができるようになると考えられます。中等度の認知障害のある高齢者では、認知課題*を追加したときに歩行が20%以上遅くなることは、5年間でADを発症するリスクが7倍増加したことを示しています。」
「複雑な脳運動課題としての歩行は、認知症のリスクが高い人を検出する絶好の機会を提供すると考えています。」
認知機能障害と認知症には、大きな医療負担が伴う。
世界中で約5000万人が認知症を患っている。そのなかでもADは最も一般的な形態であり、それら認知症の約60~70パーセントを占めている。
認知症は、記憶、思考、方位、理解、計算、学習能力、言語、および判断に影響を及ぼす認知機能の進行性の喪失によって特徴付けられる。歩行障害は、通常の加齢よりも認知症の方が一般的であり、認知機能低下の重症度に関連している可能性がある。
ここまでです。
訳者補足:
認知課題というのは、歩行テスト時に別の作業(課題)与えることで、脳に負荷を掛けること。例えば、100から1ずつ数字を引く計算をさせながら歩行テストすること。この認知的な課題を同時に行う事をDual task Gait(略してDG)と呼ぶ。DGを行う事で、一般的な歩行検査では抽出できない身体機能の低下や脳機能の低下を捉えることができる。
一日1万歩に根拠無し。量より質を重視
「健康のために一日1万歩歩きましょう。」と言われ続けてきましたが、調べてみるとその歩数の科学的な根拠は見つからないようです。
万歩計も日本のメーカーが開発したモノだそうで、東京オリンピックが開催された時代、スポーツや健康に社会的な関心が高まり、そんな社会的なムードの中で作り上げられた幻想のようです。
現在では、1万歩は歩きすぎだとも言われています。
歩数つまり量を気にするよりも、歩行の質に注意を向けるべきだと思います。
質とは、速度以外に忘れてはならない事は歩き方(フォーム)です。
歩き方が悪ければ、つまり歩く姿勢が悪ければ、歩けば歩くほど健康になるどころか、逆に身体を壊すことにもつながります。
歩く道が、アスファルトやコンクリートで舗装され平坦で歩きやすくなったとは言え、路面が固いので身体の各関節(特に足首や膝や股関節に)の負担が大きく増えます。
路面が悪かった時代には、複雑な路面の状態に合わせて機能していた足関節や研ぎ澄まされた足裏の感覚があったはずですが、歩きやすくなった路面によって、その本来有った身体機能を劣化させてしまっているのです。
現代の環境は負荷を分散できずに、集中させてしまっています。
そして自分自身の歩く姿勢の変化も、負荷を身体のどこかに集中させているのです。
健康のために行っていることが逆に健康を害しているかも知れません。
もう一度ご自身の歩き方を見直してみてほしいものです。
分からない場合には専門家のアドバイスを受けて下さい。