健康的な筋肉量を保つことは免疫系を強化し健康寿命を延ばすことにもつながる

前回、健康寿命を延ばすためには筋肉を増やす必要があるがどうやって増やせば良いのかという内容の記事を書かせて頂きました。

筋肉量を増やすことは健康寿命を延ばすことにつながるが、どうやって増やせば良いのか(2020/07/28)

筋肉量を増やすことは健康寿命を延ばすことにつながるが、どうやって増やせば良いのか

日本は超高齢社会が進み、親や自分自身の「介護」が身近な問題になってきています。

「老後の不安」についての意識調査によると、「介護に関する不安」を感じている人は日本人全体の52.8%に及ぶ事が分かりました。

今後、親や配偶者を「介護すること」に対する不安を感じている人は78.6%、自分が「介護されること」による不安を感じている人は81%に達し、非常に高い数値が示されています。

また介護・看護の理由による離職者数は、2016年の1年間で8.5万人以上にもなっています。

2016年の65歳以上の要介護・要支援認定者数は600万人を越え、日本人の20人に1人は介護や支援が必要な人で、65歳以上に限れば5.6人に1人が要介護・要支援認定者となっています。

参考)精神科医が教える「ストレスフリー」超大全

私にも、80歳を過ぎた両親がいます。
お陰様で二人とも同年代の人と比べても非常に元気ですので、家族としてもとてもありがたいことだと思っています。

二人とも歩くことが好きで、特に母親は40代後半の頃から始めた早朝ジョギングを10年位前まで、ほとんど毎日行っていましたし、今でも早朝の散歩は欠かさず続けているので、足腰はとてもしっかりとしていると思います。

たまに母親と並んで歩くことがありましたが、歩く速度も私とそれほど遜色ないスピード(普段私は結構早足です)なので、私自身ビックリしているほどです。

父親は、心臓があまり良くなく20年前くらいに心臓の冠状動脈のバイパス手術を受けているので、あまり息が上がる運動は出来なくなってしまいましたが、それでも毎日の散歩は欠かさずに行っているようです。

また二人とも、今のコロナ騒動が始まる前までは、定期的に私の整体を受けに通ってくれたことも元気でいてくれている一つの要因かな、と勝手に思っています。(ちなみに両親は横浜市に住んでおり、私の院までは電車とバスを利用して40分くらいの距離です)

私も、両親と同世代の人をたくさん施術してきましたが、他の利用者と比べて確かに脚の筋肉はしっかりしていました。特に母親は脚だけでなく、臀部からの下半身には筋肉が太くしっかりとしており、それでいて柔軟性も兼ね備えていました。

そのお陰もあってか、二人とも(父のそれ以外は)大きな病気になることもなく無事に過ごせているようです。

プライベートの話しが長くなってしまいました。

「サルコペニア」と「フレイル」

サルコペニアとは、「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を示す言葉で、一方フレイルは、「加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」を示す言葉です。

似たような意味に思えますが、サルコペニアが筋肉量が減少していく現象であるのに対して、フレイルはサルコペニアを含む身体的要素、認知症やうつなどの精神的・心理的要素、独居や経済的困窮などの社会的要素で構成されます。

フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。

参考と図)アクティブシニア「食と栄養」研究会より

筋肉は身体活動に関することだけでなく、病気に抵抗する重要な身体のシステムである免疫系にも関連していることが分かってきました。
筋力の低下が様々な健康問題を引き起こす引き金となることも、知っておいた方がよいでしょう。

それでは、まずはオーストラリアの新聞記事からです。

筋肉が健康的な免疫システムを作る方法


How muscle helps to build a healthy immune system 
 The Sydney Morning Herald (2020/07/20)



ここからです。



 新型コロナを意識した今の時代には、エレベーターを回避する良い理由がすでにあり、さらにここにもう一つ別のものがある。階段を使うことは筋肉の維持に役立ち、健康的な免疫システムを構築するのに役立つだろう。

(オーストラリア)ディーキン大学身体活動栄養研究所(IPAN)のクレイグ・ライト博士( Dr. Craig Wright)は以下のように述べた。

「あなたが生涯にわたって健康的な筋肉量を保っている場合は、免疫システムが感染症や病気に迅速に対応するのに役立ちます。私たちが年齢を重ねるにつれ、より多くの筋肉を持つ人ほど、免疫反応がより良くなり、病気になっている時間を減らすことにつながります。」

 私たちの免疫システムを軍隊として例えると、軍隊は常に戦争状態にあるとは限らないということだ。

 「軍隊が兵舎で休んでいる場合には、行動に移るための信号が必要です。」と、シドニー大学で運動とスポーツ科学を教えるケイト・エドワーズ博士(Dr. Kate Edwards)は言う。

博士は続けて、

 「何か問題があると、その信号は腸や呼吸器系から送られてくることがありますが、運動は同様の反応を引き起こし、免疫細胞を監視として送り出すことができます。ランニングをすれば、血液中の免疫細胞が増えます。」

 「それは進化の観点から見れば、理にかなっています。もし、あなたが洞窟に住む原始人なら、あなたが狩りをしたり、危険から逃げたりするすることで、ケガをする危険性が高まります。活性化された免疫システムはその為に備えるのです。」

健康的な筋肉量はまた、加齢に伴う慢性疾患から身を守るのにも役立つ。

「筋肉が放出する分子は、時間の経過とともに多くの慢性疾患の原因となる低レベルの炎症を抑えるのに役立ちます。私たちが運動すればするほど、そして激しく運動すればするほど、これらの分子をより多く産生するようになるのです。」

 定期的な運動は、一部の癌のリスクを低下させる。その理由の一つは、筋肉の質を維持し、痩せてムダのない状態を維持する事ができるためだろうと考えられている。しかし、肉体的な運動不足は、筋肉の脂肪を増やすことにより、その質を低下させる

と、エディス・コーワン大学の運動医学の教授であるロブ・ニュートン氏(Rob Newton)は説明する。

 「様々なガンからの生還が、その人の筋肉の質だけでなく量にも関連していることを示す良い研究があります。このメカニズムは、免疫システムの有効性を維持する上で筋肉が重要な役割を果たしている可能性が高いだろう。」と同氏は言う。

 「運動は、ガンの衰弱作用を乗り切るためにも重要です。ガンとその治療に伴う疲労を助ける良い薬はありませんが、疲労回復に効果的な運動はあります。」とエドワーズ博士は付け加えた。

 これは、私たち全員にランニングシューズやダンベルを奪い合うことになると思うだろうが、運動のしすぎは免疫に悪いと広く信じられている、と博士は言う。

 「しかし、ほとんどすべての運動は免疫系にとって有益であり、マラソンなどの激しい運動が免疫系を弱体化させるという証拠は強くはないのです。」

 年齢を重ねるごとに筋肉量は減少していく。しかし、筋力トレーニングでそれを維持することは、私たちの免疫システムを強化するのに役立つ。

 「高齢者では、筋肉の収縮と免疫力低下の組み合わせ(多くの場合、過剰な脂肪によって悪化する)は、免疫システムの低下のためのパーフェクトストームです。」とニュートン教授は述べている。

これはCOVID-19のリスクを高める可能性があるのだろうか?

「サルコペニアと呼ばれる低い筋肉量は高齢者にはるかに多く、ライフスタイルの変化のために懸念される速度で増加しています。サルコペニアとCOVID-19のリスクやその影響との間に関係があるかどうかを知るにはまだ時期尚早と考えるが、サルコペニアと肺炎を含む他のいくつかの感染症の発症率と重症度との関連性については、すでに良い証拠が見つかっています。高齢者の筋肉量を維持するために筋力トレーニングを含めた身体活動を維持することは非常に重要です。」

あなたが運動習慣を始めるための理由が必要な場合、ここにもう一つの理由がある。

運動が予防接種の有効性を高めることを示す多くの研究があります。予防接種の直前や直後に運動をすることで、免疫系が対象疾患に対する免疫力を高める事ができ、長期的に運動を通じて身体的に健康になることは、予防接種の効果を高めることができます。」

筋肉をつける方法(ジムの有無に関わらず)

 ジムや自宅でウェイトやレジスタンスバンド(訳注:伸縮性のあるゴムバンド)を使った筋力トレーニングは、筋肉をつけて維持するための明らかな方法だ。しかし、日常生活の中で、筋肉を強化する動きを取り入れることも効果的です、とエドワーズ博士は言う。

階段を上るのも、上り坂を速く歩くのもその1つです。シットスタンドデスク(訳注:立ったまま使用するデスク)を使うこともそうでしょう。座りっぱなしではなく、立った状態から座ったり、その逆の動作が、スクワットをするのと同じことになります。」と博士は続けた。

 階段を降りるときにはつま先ではなくかかとを使って降りると、安全面だけでなく(つまずきを減らす)、大腿四頭筋を強化して伸ばすことができる。



ここまでです。

いつもご紹介している米国医療系サイトの一つ、メディカル・エクスプレスからも同様な報告があるのでこちらも紹介しておきましょう。

筋肉は強い免疫システムをサポートする

Muscles support a strong immune system Medical Xpress(2020/06/15)


ここからです。



ガンや慢性感染症との闘いでは、免疫系が長期間に渡って活動しなければならない。
しかし、長い目で見れば、免疫防御システムは疲弊してしまうことが多い。
ドイツがん研究センター(DKFZ)の科学者たちは、骨格筋が慢性疾患において免疫系の機能を維持するのに役立っている事を示す最初の証拠をマウスで発見した。

 多くの場合、重度の体重減少と筋肉量の減少は、ガンや危険な感染症の結果だ。悪液質として知られているこのプロセスに加えて、患者はしばしば免疫力の低下に苦しんでいる。

 その理由の一つは、ウイルスに感染した細胞または癌細胞を認識して殺すことを任務としているT細胞のグループの機能低下にある。

 T細胞の活動低下につながるプロセスは、まだほとんど説明されていない。しかし、最初の兆候は悪液質と関連があることを示唆している。

T細胞が骨格筋量の減少に関与している事は知られています。しかし、骨格筋がT細胞の機能に影響を与えているかどうか、またどのように影響しているのかはまだ分かっていません。」と、DKFZ のツイ・グォリァン(Guoliang Cui)氏は説明する。

 それを調べるため、科学者たちはマウスにリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)を感染させた。この方法は、マウスの急性または慢性感染の経過を研究するために広く使用されているモデルである。その後、研究者らは動物の骨格筋の遺伝子発現を分析し、慢性感染症では、筋細胞がメッセンジャー物質であるインターロイキン-15(IL-15)の放出量が増加することを発見しました。このサイトカインは、T細胞前駆体を骨格筋に定着させ、その結果、それらは空間的に区切られ、慢性炎症との接触から保護される。

参考)MSD マニュアル家庭版より

リンパ球性脈絡髄膜炎とは、通常はインフルエンザに似た症状を引き起こすウイルス感染症で、ときに発疹、関節痛、その他の部位の感染症を伴います。

 

 「感染症と積極的に戦うT細胞が、継続的な刺激によって完全な機能を失うと、前駆細胞が筋肉から移動し、機能的なT細胞に発展することができます。これにより、免疫システムが長期にわたって継続的にウイルスと戦うことが可能になります。」と研究の筆頭著者であるウ-・ジンシァ(Jingxia Wu)氏は述べた。

では、定期的なトレーニングは免疫系を強化できるのか?

 「私たちの研究では、筋肉量が多いマウスは、筋肉が弱いマウスよりも慢性的なウイルス感染にうまく対処できました。しかし、結果が人間に当てはまるのかどうかは、将来の実験で明らかにする必要があります」とツイ氏は説明します。


ここまでです。

今回の記事の内容から話は脱線してしまうのですが、始めに紹介した記事の最後に、

階段を降りるときには、つま先ではなくかかとを使って降りると、安全面だけでなく(つまずきを減らす)、大腿四頭筋を強化して伸ばすことができる。

とあります。

この引用箇所ですが、階段の下り方は身体の構造から考えると、こちらの方が正しいといえます。

なので、踵からおりるこの階段降り方は、変形性膝関節症のような膝痛の方にもおすすめです

なぜかというと、膝痛の方は、大腿骨と脛骨+腓骨(で膝関節を構成しています)に捻れとズレが発生しているため、関節を含め膝周りの筋肉・靱帯も無理に引っ張られるようになります。そうして、膝関節周辺に炎症を起こし、そこに痛みが発生するのです。

膝関節は、伸展時にロックする構造になっているのですが、屈曲時には膝関節は緩む構造になっています。

階段を降りる時に、つま先からおりると膝がまだ屈曲していますので、関節が緩んでいる(遊びがある)状態に捻れとズレが起きているままで体重がかかることになるため、大きな力が膝周りの靱帯にもかかります。それが炎症部分を刺激して痛みになります。

なので、膝が伸びた状態に近い姿勢で階段をおりれば、大腿骨と脛骨(スネの太い骨)で自分の体重を支えられる事になるので、膝痛が軽減されるのです。

巷に良くある膝痛の説明は間違ってはいませんが、説明としては不十分だと考えてます。軟骨はほとんど関係ありません。軟骨が摩耗して変形するのは結果であって、原因ではないと言うことです。

膝痛になるメカニズムは機会があればもう少し詳しく書いてみたいと思いますので、読んでみたいと思う方は是非リクエストをお願い致します。

 

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