プラセボは「心」と「体」の関係性をつなぐ新たな科学になる可能性

前回の記事では、サプリメントを取り上げました。

サプリメントが効くか効かないかは個人差が大きくその効果を証明するのが困難なワケ(2020/08/04)

サプリメントが効くか効かないかは個人差が大きくその効果を証明するのが困難なワケ

基本サプリメントは、必要な栄養素の不足分を補う事を目的として利用されます。

そしてある栄養素の不足によるもので起きているであろう、現在の身体の状態を改善する効果を期待して、みなさんはそのサプリメント(健康食品)摂っているわけですよね。

もし、あなたの今の身体の状態が何かの不足によって起こっているものであれば、その不足分を補うことで状態は改善されてくる可能性は十分にあります。

でも、本当にそれが原因で起こっているかどうかの判断は、正直素人には難しいです。

ところが、それとは全く無関係のものが、なぜか効いてくることもあります。
それが、ただの何も入っていない水のようなものでも、クスリを飲んだように症状に効くこともあるのです。

これを、プラセボ(効果)と呼びます。または、偽薬効果とか暗示効果とも呼ばれるものです。

昔から、病は気からとは良く言いますが、つまり暗示のようなものであっても効果が出るんですね。

実際には、そんなプラセボ効果(が邪魔するので)を排除をするために、二重盲検ランダム試験法などを使って研究しています。

今回の研究ではその嫌われ役(?)のプラセボが痛みの緩和に役立つことを示した研究の記事をご紹介したいと思います。

プラシーボ効果は痛みを治療できるかもしれない

Placebo effect could treat pain Medical Xpress(2020/07/09)

ここからです。



(英国)マンチェスター大学のユニークな研究によると、慢性疼痛のある患者では、健康なボランティアと比較してプラセボによる疼痛緩和が再現可能であるという。

 最初の研究では、うつ病や不安神経症などの精神的苦痛のレベルが高い患者が、自分に効くかもしれないと思った不活性クリーム(つまりただのクリーム)を使ったプラセボ実験で痛みの緩和を経験した。

 研究者らによると、臨床医に鎮痛薬以外の代替手段の使用について考えるように促す可能性があるという。また、痛みの管理を改善し、望ましくない副作用をもたらす可能性のある鎮痛薬への依存を減らすこともできるという。

 痛みは、脳内の特定の脳プロセスの結果として経験される。プラセボは、積極的に我々が脳の能力を利用して、痛みを感じる方法を制御するためには強力な方法だ。

  この研究は、Pain誌に掲載された。

 変形性関節症患者60人、線維筋痛症患者79人、および健康な個人98人の前腕部にクリームを塗布した。

 プラセボ群には、これが局所麻酔クリームかもしれないし、そうでないかもしれないと伝えられ、対照群にはクリームには効果が無いと伝えられた。

 次に、レーザーによる痛みを与え、クリームの塗布前、塗布中、塗布後に痛みの強さを、痛みの緩和への期待や不安を順位付けしてもらった。

 2週間後にもこの手順を繰り返し、結果は同じである事が分かった。

 この調査結果は、アルファ脳波同調療法と呼ばれる一秒間に10サイクル(10Hz)の特定周波数に脳を同調させる光療法を使用して、自然な痛みのコントロールを強化する研究を補完するものだ。

 アルファ脳波同調は、以前研究チームによって、ボランティアや慢性疼痛患者の疼痛緩和の期待と関連している事が示された。

 マンチェスター大学のアンソニー・ジョーンズ(Anthony Jones)教授は、

「慢性的な痛みは、大きな社会経済的負担を伴い、影響を受けた個人の生活の質に大きな影響を与えます。多くの場合、治療は困難であり、これらの患者の多くは、その影響とその結果としての精神的な健康への影響と日々付き合っていかなければならないのです。」

「しかし、この研究は、変形性関節症や線維筋痛症の人々が、健康な人と同じように実験的な痛みへの反応を調整できることを初めて示しています。これらの患者を治療する方法があるかもしれませんし、エキサイティングです。」

 マノ-ジ・シヴァン(Manoj Sivan)博士は、リーズ大学のリウマチ・筋骨格系医学研究所の准教授であり、マンチェスター大学の名誉上級講師でもある。

 博士は以下のように述べている。

「以前は厄介な変数であると考えられていたものが、慢性疼痛における患者の転帰を改善する大きな可能性を秘めていることが示されました。プラセボ反応の神経メカニズムを理解することで、痛みの知覚を調節し、スマート神経治療プラットフォームのような他の新しい治療法の鎮痛効果を高めるために、これをさらに活用することが可能となるでしょう。」

 彼は更に付け加え、

「現在、オピオイドの過剰使用における危機がすべての臨床医にとって懸念事項であり、この研究は慢性的な痛みを管理するために、非薬物のアプローチを使用するための証拠を強化し、私たちの患者を管理するための重要な文化的変化を奨励しています。」

 マンチェスター大学名誉研究員のアンドレア・パワー( Andrea Power)博士は、次のように述べている。

「通常、痛みは否定的な感情を増大させ、それが主観的な痛み体験を増大させます鎮痛薬の投与は、不快な症状の軽減の期待を誘発し、不安を軽減し、その結果、不快感の実際の症状を軽減します。それが慢性疼痛患者が不安、うつ病、痛みの壊滅的、認知障害などの心理的併存症を抱えている理由なのです。」

「このような理由から、プラセボによる疼痛の調整における期待と不安の役割は、これらの患者を治療する上で重要な役割を持っているのです。」

 自身も変形性関節症と線維筋痛症を抱え、サルフォード線維筋痛症サポートグループで働くヴァル・ダービシャー(Val Derbyshire)氏は以下のように述べた。

「現在、オピオイドを含むさまざまな治療法が提供されていますが、成功の度合いは様々です。痛みの解決策を見付けることに絶望する人もいれば、どんな選択肢を提示されても暗示がかっている間は、それがどれほど奇妙で不思議にみえるものであっても、ほとんど何でも試してみるでしょう。」

「オピオイドの使用とそれに付随する副作用を減らすことができるものは、何でも歓迎されます。プラセボは有害な副作用なしに多くの人に効果があることが示されています。私は、それが慢性の広範囲の治療にもっと広く使用できると信じています。」



ここまでです。

痛みというのは、外から侵襲を受け(つまりケガをした時のように)て傷ついた組織が修復をするときに痛む、明らかに因果関係の分かっている外因性のものと、それ以外の原因によって起きている内因性のものと、大きく分けて二つの種類があります。

組織が修復中の急性期の痛みはある意味とてもシンプルです。しかし、組織が修復されているにもかかわらず続くような慢性期に入った痛みというのは、身体だけでなく心の問題に発展していきますので、痛みが長引くほど複雑になります。

そんな中、プラセボも立派な治療法の一つに加えることができるようになると、個人的には考えています。

なぜなら、名医と呼ばれるような人には、その先生に言われただけ(会っただけで)でも治ってしまう、あるいは治ったような気にさせてしまうような方がいらっしゃいます。

私も、そんな先生のように患者さんから心から安心・信頼されるよう日々精進していきたいです。

これには、クスリもサプリメントも遠く及ばないですね。

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