『最新!痛みのバケツ理論』② ~『痛み』を起こす要因 外的要因と内的要因 ~
『痛み』を起こす要因 外的要因と内的要因
「痛み」を起こす原因は、主に自分の外側に起因する外的要因と、主に自分の内側に起因する内的要因の二種類があります。
(編注)たくさんの要因が絡み合ってその結果引き起こされたものが原因です。
【外的要因】は一般的に変えるのが困難
自分の外側における問題なので自分でコントロールするのが非常に難しいことのほうが多い。
たとえば、
「生活環境や労働環境」
住む環境地域によって、雨が多いとか雪が多い、暑いとか寒いといった気候によるものや、工場の周辺とか、交通量の多い道路沿線などでの音が関係するものや臭いに関するものなども変えることはできませんよね。
働く環境もそうです。
たとえば、二交代・三交代といったようなシフト勤務。命に関わるような危険な作業現場での仕事や肉体的にハードな仕事。また肉体的ストレスの多い仕事だけでなく、直属の上司との関係や職場での人間関係など、精神的ストレスが多い環境ということもあるかも知れません。
これらの環境は、自分で選んだ場合、そうでない場合もあるでしょう。しかしながらその環境そのものを変えることは一般的には難しく、たとえ引っ越しをして、今住んでいる場所を変える、または転職をして仕事を変えたとしても、また新たな問題を抱える可能性があるかもしれません。
つまり、【外的要因】を変えるというのは、多くの場合簡単なことではないし、一時的な改善にしかならない場合もある、という事が分かります。
【内的要因】とは何でしょう?
こちらは、ひと言で表すと「生活習慣」になります。
生活習慣といえば、 ①食事 ②睡眠 ③運動 が三大生活習慣 ですね。
生活習慣病でもある、高血圧症・心臓病・糖尿病・高脂血症などはこれら生活習慣が深く関係することが分かっていますが、ここにもうひとつ加えたい要素(要因)があると考えています。
それは「考え方」です。
「考え方」というのは、その人が今まで生きてきた中で身に付けてきた【思考(又は物事に対する受け止め方)】のクセであるので、これも習慣化されて出来てきたものであることが分かります。
つまりここでいう【内的要因】は
① 食事
② 睡眠
③ 運動
④ 思考
となるわけです。
これら 4つの【内的要因】は、自分の内側に起因するもの なので、【外的要因】のように自分の外側を変えることに比べればはるかに簡単に変えることが出来ると考えるのが普通です。
つまり 、自分の周りの環境(外的環境)を変えるのはでなく、自分自身(内的環境)を変えることで、「痛み」をコントロールする ことが可能となるわけです。
そもそも痛みはどのようにして感じるのでしょうか
痛みは、センサー(受容器)が刺激を感知し、電気信号に変換します。その電気信号は神経(末梢神経と脊髄神経)を通じて脳に伝えます。
つまり、「 痛み」(刺激)という信号が脳に伝わって、初めて脳がどの場所に、どうのような刺激(痛み)があるのかを判断しています。
① 受容器(侵害受容器)
② 神経(末梢神経と脊髄神経)
③ 脳
という経路で伝わるわけです。
この 3つの経路でそれぞれが誤作動(またはダメージ)することがあると言うことです。
① 受容器のダメージ(外部からの強い刺激による)
② 神経のダメージ(信号の消失や増強、混線など)
③ 脳=心理的・精神的(心理的・社会的要因)ストレスなどによる誤認識
痛みにも原因により違いがあります。
痛みの原因については、本テーマではありませんが、代表的なものとしては、
① 切り傷、火傷など強い刺激による破壊された組織を修復する ために起こる炎症性のもの。
② 神経が圧迫されて起こる脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどによる痛みやしびれ 。
神経が異常な興奮をすることで起こる、帯状疱疹後神経痛や糖尿病神経障害による痛み・しびれ など
③ さまざまな環境によるストレスにさらされ、脳の「痛みを抑える働き」が弱くなり、痛みを普通より強く感じたりして痛みが慢性化する。痛みがさらに痛みを引き起こす慢性痛、たとえば肩こりや腰痛などです。
①については、急性期の痛みであり因果関係がほぼハッキリしている痛み です。つまり、ケガをしたとか、ヤケドをしたとかインフルエンザにかかった時に経験する関節痛などの痛みで、原因が分かっているもので、組織は修復されることで痛みは速く回復するものです。
②は、脊柱管狭窄症など手術などで患部を取り除く事で解決される場合も有りますが、それでも痛みやしびれが残ったり逆に強くなることもあり、必ずしも患部が直接的な原因では無かった可能性もあります。後者の神経が異常な興奮することで起きる痛みには、特徴として市販の鎮痛薬ではほとんど効果がないものが多いです。
③は、ストレスによって、交感神経の緊張と運動神経を興奮させ、血管の収縮や筋肉の緊張を起こします。その結果、血行が悪くなり、「痛みを起こす物質」が発生し、それが痛みとなるものです。痛みが交換神経を刺激し、更に痛みを起こす負の連鎖が慢性痛の正体です。
これらを【内的要因】と【外的要因】に分けて考えてみると、
①は【外的要因】によるものと考えられ、
②と③は【内的要因】と【外的要因】どちらも考えられるが、それでも【内的要因】の方が比重が高いと考えられます。
【内的要因】は4つ、そしてすべて自分自身でコントロールできる
それでは、これら②と③の要因をどうやって(自分で)コントロールするかについて、まずは4つある【内的要因】について書いていきます。
① 食事(栄養)
② 睡眠
③ 運動
④ 思考(考え方のクセ)
これら4つの要因は、痛みのバケツ理論の【バケツに注がれる水の量】と【バケツに空いている穴の大きさ】に直接的に関与するものですが、どちらもある程度自分でコントロールできるもの。つまり上記4つの要因は自分自身の心掛けで変化させることができるものです。
食事の質と量
これは説明するまでもありませんが、みなさんのカラダは、食べたもので出来ています。
昨日までに食べたものは消化吸収され必要な成分に分けられます。
そしてカラダは必要な場所に必要な量を振りあて、過剰なものは貯蔵または体外に排泄されることになります。
必要な量が確保できなければ、別の場所から調達したり、それでも足りなければ、機能を落としてでも生命を維持しなければなりません。そうなればいわゆる病気の状態となります。また、過剰な場合でも貯蔵出来る量には限界がありますので、度を越せばやはり病気になるわけです。
昨今、加工食品には多くの種類の添加物が入れられています。少量では無害だとしても、それらを長期間食べ続けても問題無いという保証はありません。 また、死ぬまでに体に蓄積される添加物の量はボーリング玉1個分(5-6KG)だとも言われています。量だけでなく、増え続ける添加物の種類も問題で、これらがカラダのなかでお互いに化合し、新たな体に有害な物質になる可能性も否定はできません。
ところで、昨今日本食が健康に良いという事で世界中でブームになっています。 しかし、本当の健康的な日本食というのは、現代の欧米化された日本食のことではなく、戦前までに日本人が普通に口にしていた、工場で作られた食品ではなく、それら加工品もほとんど手作りだった時代に食べられていた質素な日本食です。
しかし実際問題、現在の日本で、手作りの加工品はめったに口に出来るものではなくなりました。原材料の元の形が分かるような食品を探すのも難しくなりましたが、それでも食材・食品選びはしっかり行いたいですね。
正直、質のコントロール難しいとしても、まだ量のコントロールは容易だと思います。
つまり1回当たりの食事量を減らす、または食事の回数を減らす、といった以外にも、食事の時間(の長さ)も関係します。食事時間が短いと噛む回数が減りますので、満腹中枢の刺激が少なくなり、満腹感が味わえなかったり、満腹になるまでに量をたくさん摂り過ぎてしまう事になります。
食事は、お腹が空いてしばらく経ってから食べる。食べるときには良く噛んで時間を掛けて食べましょう。
たくさん噛む事で、この後紹介する睡眠の質も向上することが分かっています。
睡眠の質と量
内的要因の2番目「睡眠」について。
睡眠が我々に必要であることに異論はないでしょう。
なぜ睡眠が必要なのでしょうか?
それは、昼間活動し疲労した体を休ませる必要があるからですね。脳科学的にも、学習した知識を記憶させる、知識と経験を結びつかせるなど、脳は睡眠時には昼間以上に活動する部位がある事が分かっています。
● なぜ体を休ませる必要があるのでしょうか?
簡単にいうと、昼間活動しそれによって傷ついた組織(細胞など)を修復し、元通りに機能を回復させるためです。組織の修復時には自律神経である副交感神経が優位に働きます。この副交感神経が優位な状態というのは分かりやすくいえば、からだ(心)がリラックスしている状態です。逆に交感神経が優位であれば、からだ(心)は緊張状態ということになります。
眠れないと言うことは、交感神経優位な状態になっている(つまり昼間の状態)ことですから、体は回復することが出来ない ということです。睡眠の質が悪ければ、傷ついた組織の機能を十分に回復させることが出来なくなるため、組織が上手く再生できなければ、ガン化するなど組織が変成していきます。つまりその組織の寿命を早める、あなたの寿命を短くしているということになるわけです。
さらに、体だけでなく心にも緊張状態を強いられるので、常にストレスにさらされ続けることで心(精神的)の問題も引き起こします。
この心(精神的)な問題は、このあと紹介する思考のクセとの関係が深く関与します。
当院にも睡眠障害をお持ちの方が多数利用されていますが、概ね障害の程度は軽度から中度くらいの方で、重度の方はあまりいらっしゃらないようです。
睡眠に対して不満を持つのは、お年寄りが圧倒的に多いのですが、話しを聞いてみると、そういう方ほど睡眠をとらなければとの思いが特に強く、早く眠れるように眠くなる前から床に就くので、逆に眠れないと悩んでいるようです。 睡眠を改善するには、規則正しい生活と軽い運動を屋外で行う事をオススメ致します。
● 良い睡眠に必要なもの
良い睡眠に必要なものは、以下の通り。
① 適度な運動(昼間の活動やリズム運動)
② 太陽の光(朝の太陽光はビタミンDを生成する)
③ 規則正しい生活(起床時間、就寝時間など)
※睡眠のテーマひとつだけでも1冊の本が書けるほどの内容なので、いずれ機会を見つけて書いてみたいと思います。
最後に、眠れないとあせると余計眠れません。また眠ってもすぐにトイレに起きる事では睡眠の質も悪くなります。
ですのでそういった方は、眠る前の2時間前には水分を 摂らないようにしてみましょう。
お茶やコーヒー、アルコールなどは控えた方がよいでしょう。
痛みを緩和させるには運動
内部要因の三番目「運動」についてです。
運動が体に良いことはみなさん良くご存じだと思います。
でも、「そもそも、からだが痛いから運動することが出来ない」という声が聞こえてきそうですね。
● 動かないからますます痛くなる
例えば正座をすれば、しばらくするとしびれが出てきて、終いには痛みとして感じるようになります。それをできるだけ楽にさせようと身体はモジモジと動き始めますね。じっとして居られなくなるわけです。これは身体の防御反応が起こっていると言えます。
こうすることで血流を促し、筋肉が疲労しないようにしているのですが、大きく動かすことは出来ません。多少血流が回復したとしても、全体の流れは改善していないので、しびれや痛みは続くことになります。
こうしたことが、痛みのバケツの穴(回復を妨げる)を小さくしている要因となります。
● 痛みの原因は主に筋肉の損傷
私たちのからだは、8割の筋肉で動きと安定感(バランス)の働きを、2割の骨格が全体の重さを支えています。なので不具合はまず筋肉の損傷から起こります。
疲労により筋肉の損傷が進むと、それが痛みとして知覚されます。
そして、関節の可動域にも影響がでてきます。関節の可動域に制限がかかれば、別の筋肉にも負担が掛かり、その筋肉がまた損傷し・・といった具合にダメージの範囲が拡大していくこととなります。
● 運動が痛みに効く3つの理由
① 血管内に滞った発痛物質が原因なので、これが運動することにより流され痛みが治まるから。
② 使わなくなって神経伝達が悪くなってしまった神経線維が、運動することで刺激・活性化されます。
運動を継続することで神経が若返り、身体の動きが以前より、スムーズに行えるようになるから。
③ 軽い運動で、ストレスが開放されます。そして鎮痛効果の高いセロトニンが分泌されます。
少しハードな運動をすれば、さら強力な エンドルフィンが作られ、痛みを感じにくくさせます。
運動が終わった後で、達成感や爽快感を味わえば、これまた幸せ物質である ドーパミンが分泌され、
さらに運動しようという意欲が湧いてくることで、好循環のサイクルが形成されます。
正しい「身体の使い方」を身に付け、軽い運動(正しい姿で行う事が大事)を継続すれば、身体の回復力は高まり痛みは緩和します。
痛みが緩和すれば、更に動けるようになるので、もっと回復していくという好循環が生まれます。運動はこの痛みのバケツの穴を大きくし、身体の回復力を上げ、痛みを緩和する役目を果たすわけです。
まずは運動を「身体の使い方」と読み替えて頂き、生活の基本動作である、座る・立つ・歩くといった動作の見直しを図ることが重要です。そして、その上で正しい運動姿勢を身に付ければ、故障知らず、疲れ知らずの身体を手に入れることが出来るのです。
痛みを感じているのは「脳」
【内部要因】最後のひとつは思考です。
思考とは考え方であり、感情や心の状態と表現してもよいでしょう。
「痛み」の信号は、痛みの神経線維を伝わり、大脳で認識されます。脳イメージング法を用いた研究によると、視床だけではなく、体性感覚野、帯状回、前頭葉、小脳など、様々な場所で認識されている事が分かってきました。つまり、「痛み」の信号は本人の喜怒哀楽のような感情や運動など、様々な活動により信号自体が変化し、その結果、認識される痛みの強さに変化が生じることがわかってきたのです。
また人によって痛みの感じ方も違います。同じような怪我をしても、すごく痛いと感じる人もいれば、蚊に刺された程度と感じる人もいるわけです。つまりは 痛みはコントロール可能であるということです。
● 痛みは感情によって左右される
痛みをコントロールするということは、感情をコントロールし、ネガティブな感情(不安や恐怖など)によって起こる痛みの信号に対する感受性(反応)を下げるという事です。
感情は、物事に対する反応の結果起こるものであり、その物事に対する反応は自分次第で変えることが出来るのです。
たとえば、物事に集中すると、痛みを忘れることがあります。そして、集中が切れるとまた痛みが戻ってきます。このようにある物事に心が集中している時には、痛みに対する感受性が鈍くなります。
また、ぎっくり腰を経験された方であれば分かると思いますが、ほんのちょっとした動作でも、痛みの記憶から不安や恐怖で身体が強ばってしまい、「痛み」来ると思った瞬間(脳には痛みの信号が来ていない)に、鋭い痛みが走ることがあります。
このように感情や物事のとらえ方一つで痛みを感じたり、感じにくくなったりするのです。
● 人は悲しいと感じているとき痛みが強くなり、楽しいと感じているとき弱くなる
① ネガティブな感情では痛みを強く感じる
② ポジティブな感情では痛みを弱く感じる
痛みは、悲しいと感じているとき、不安だと感じているときなどネガティブに傾いている時には強く感じ、楽しいと感じているとき、幸せだと感じているなどポジティブに傾いている時には、感じにくくなります。
つまり、楽しい事や、好きな事をしているときには、痛みを忘れていたり、痛みの感じ方が鈍くなり、嫌いなことや心配事があると、強く感じるわけです。⇒コレ非常に重要ですよ!
● 「笑顔」と「感謝」が痛みを遠ざける
私たちはたくさんの経験を通して、物事に反応する心の状態を学習してきました。
物事に対する反応のクセを見につけてきた訳ですから、特にネガティブな反応には注意が必要です。思考がネガティブに反応すれば、身体にもその反応が出ます。
そこでこのシステムを逆手に取ることで、思考がネガティブに傾く事を防ぐことができるのです。
① 無理にでも笑顔を作る(表情と心はつながっています)
② 不平・不満を言わない(他人が聞いて不快だと思うことを言わない)
③ すべてに感謝する(声に出して「ありがとう」と言う)
心と身体は一心同体、心の状態は、身体の状態と同じです。
心がネガティブになれば、身体もネガティブに反応します。
だから、笑顔と感謝は、身体と心をポジティブに変えることが出来るのです。
※初掲『いやさか通信』2017年8月号~2018年1月号より(一部追加・訂正)