『痛みは脳が「作りだす」』~病名を付けられるとそのように振る舞う~
みなさんにもこういった経験がありませんか?
たとえば、別に大したことがないんだけれどなんとなく「体がだるいなぁ」と感じていたので、体温計で体温を測ったら38度を超えていました。すると自分の体温を知ったまさにその瞬間から熱が上がったように更に体がだるくなり、立っているのもしんどくなった・・・。
もし、自分の体温を知らなかったら、ちょっと熱があるかな位ですんだものが、結局寝込むほど悪化した。
このように私たちは知らずにすんだらよかったものが、知った途端に体も気持ちも変化する生き物なのです。
■脳と痛みとの関係性について
それでは、整形外科の診断によって変形性関節症や脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニアなどの病名をつけられた方が、その思い込みによって痛みを増悪(ぞうあく:症状をますます悪くすること)させることについて話をしてみたいと思います。
整形外科では、膝や股関節の変形性関節症、 頸椎や腰椎の脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどから起こっていると言われている痛みに関して、整形外科医が一般的に説明することも交えて述べてみます。
人工関節や手術に対する是非
まずは、膝や股関節の変形に対して人工関節を入れること、痛みを改善させるために、頸椎や腰椎の脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの手術を受けることの是非について考えてみます。
痛みというのは脳が関わっており、脳の機能を悪くしないと言う意味でも、痛みを取る事は重要な課題であると考えます。
例えば、慢性腰痛の患者さんの脳血流を見ると、前頭前野の血流が低下しているという報告があります。
前頭葉の血流が低下すれば、当然長期的に見て脳の機能が落ちます。痛みと脳機能の低下は無縁ではないということになります。
医学的にみて痛みと骨の変形は関係が無い
医学的にはっきりしていることは、関節や骨の変形と痛みとは関係がないということです。整形外科にかかって、痛みを取るための手術を勧められた人には理解できないように聞こえるでしょうが、これにはさまざまな証拠があります。
まず、画像的(X線写真やMRIなど)にヘルニアがある人とない人で痛みの頻度の差がない、膝の変形のある人とない人で痛みの頻度の差が無いなど、それを裏付ける画像的な報告はたくさんあります。
さらに、腰椎脊柱管狭窄症への手術後を長期的にフォローし続けると、 10年後に半数以上が歩行障害をきたしており、結果がよくないという報告もあります。
米国では変形性膝関節症に関して、シャム手術という皮膚切開だけしてそれ以外に全く手術をしていないグループと、実際に手術をしたグループとのあいだで、痛みの改善に関して差がないという報告もあります。
痛みは筋肉から来ている
以上を総合すると、痛みの原因は、関節や骨の変形からくるのではなく、筋肉の疲労から来るということになります。
つまり、痛みの本質とは、筋肉の血流低下により発痛物質が出て脳が痛いと感じ、医者に関節や骨の変形から来るものと言われてそれで納得し、それらがお互いに作用し「自分の痛みは骨の変形で起こっている。だから一生治らない、その変形を治す手術を受けなくてはダメだ」と言うストレスでさらに痛みは増幅されるというわけです。
その証拠に、腰痛がある患者さんは、安静にするより動いた方が治るという報告があります。 動いた方が治るという事は、変形による神経の圧迫ではなくて血流が原因であり、動いて血流を増やすことが治癒につながる という事です。
痛みに関しては手術が有効という結論は疑問ですが、注意点として麻痺があったり、膀胱直腸障害がある場合には手術が大変有効である場合もありますので、そのような場合はまず画像検査をすることが肝要でしょう。
特に高齢者は痛みがあることで活動が制限され睡眠障害になることも多く、それが脳機能の低下はては認知症につながってしまう事も多いのでは、と考えています。
■まとめ
「痛みは筋肉の使いすぎと使わなすぎ」
筋肉は使いすぎると痛みが出るし、使わなくても痛みが出ます。治療を進めることで、痛みが徐々に軽減するという結果を出すことで患者さん自身の意識を変え、その自信がさらに痛みを改善することにつながる、といった好循環で、手術が必要だと言われた患者さんの痛みの真の原因(筋肉と筋膜)を探り、改善に繋げていくのです。
痛みに関しては筋肉や筋膜の問題がほとんどなので、安易に手術に頼るのでなく、本質的なアプローチをすることが大事であると私は感じています。
もちろん痛みを取るには本人の努力が必要ですが、努力することが脳機能の改善にもつながると考えています。
当院では、痛みを取る事を主眼におくのではなく、痛みを起こしている要因である、身体の間違った使い方によって起こる身体のゆがみを正し、身体が本来持っている回復力によって自然と治る身体に戻していく事が肝要 だと考えています。
☆初掲「いやさか通信」2018年3月号より(一部訂正・追加)