パーキンソン病は、女性よりも男性の方が2倍多い
病気には先天的・遺伝的なものと後天的なものがありますが、環境などによって引き起こされる後天的な方が多いのではないかと考えています。
遺伝的なものというと何か運命的なすでに決まっていることであり、変える事ができないように感じてしまいますが、他にも何か変える方法があるのではないかと思っています。
今回も前回に引き続き性の違いよって発症率が異なるとされる、今回の記事のタイトルにもなっている、私も将来起きるかも知れない「パーキンソン病」の性差について研究された、二つの報告を紹介しましょう。
遺伝子が男性と女性の脳では異なって作用する
ここからです。
男性と女性の脳はレベルごとに異なります。 科学は、これらの違いが健康と病気にどのように影響するかを明らかにし続けています。
高齢者によく見られる衰弱性の神経変性疾患であるパーキンソン病は、女性よりも男性の方が2倍多い。
今月発表された新しい研究は、性決定遺伝子(男性特有のY染色体上のSRY)が、この疾患の根底にあるドーパミン産生ニューロンの損失の役割を果たすことを示唆している。
この発見は、男性と女性の脳で遺伝子がどのように異なって作用するかの壮大な例を提供するだけでなく、パーキンソン病に苦しむ男性のための新しい治療オプションにつながる可能性がある。
性別と病気
多くの病気は、一方の性別でより一般的である。
たとえば、多発性硬化症やその他の免疫障害は女性に多く、パーキンソン病、および統合失調症や自閉症などのいくつかの精神的疾患は、男性に多くみられる。
薬物代謝に重要な遺伝子の発現の違いのため、治療も男性と女性で効果が異なる場合があり、これらの性別の差の根拠は往々にして不明瞭だ。
男性と女性のホルモンの違いが、病気やその治療に影響し、たとえばパーキンソン病の性差は、以前は女性の脳におけるホルモンのひとつエストロゲンの保護効果にのみ起因していたと考えられていたが、しかし、ホルモンの違いだけでなく、性染色体上の遺伝子が脳に直接影響を与える可能性があるという理由ができた。
パーキンソン病
パーキンソン病は、特に人口の高齢化に伴って成長する問題であり、オーストラリア人の約300人に1人がパーキンソン病にかかっている。それは通常、その後の人生で自発運動の開始と維持の問題として現れ、重度の振戦(訳注:手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルな震えのこと)を伴う場合がある。
パーキンソン病は、他の神経細胞にメッセージを送信するホルモンおよび神経伝達物質であるドーパミンの生成に関与するニューロンの喪失によって引き起こされる。これらのドーパミン合成細胞の70%が枯渇すると症状が現れる。これらのニューロンがどのように失われるのかはわかっていないが、運動機能への損失の影響は、ドーパミンの産生の減少によるものと予想されている。
パーキンソン病は進行性であり不治ではあるが、症状はドーパミンを増強するか、ドーパミンの代わりになる薬物によって改善され、病気の進行を遅らせることはできる。
SRYおよびパーキンソン病
人間や他の哺乳類では、女性には2つのX染色体(XX)があり、男性には1つのX染色体と男性固有のY染色体(XY)がある。
SRY(訳者注:Sex-determining Region Yの略)は、胎児の胚にある男性の性別を決定するY染色体上の性決定遺伝子のこと。
SRYは身体の他の部分でも活発に作用していることがわかっている。マウスおよびラットでは、SRYは脳で活性があり、ヒトでは、脳を含むいくつかの組織および器官で発現している。
SRYは、パーキンソン病の症状を持つように変異したマウスとラットの脳、および化学療法によって病気が誘発された動物で、異常に高いレベルで発現することがわかっている。
以前の研究では、SRY遺伝子の過剰な活動がドーパミンを合成するニューロンを破壊することが示されたが、これがどのように起こるかは完全にはわかっていない。しかしドーパミン産生とパーキンソン病との関連を考えると、パーキンソン病が女性よりも男性に多く発症する理由の一部を説明できるかもしれない。
研究では、パーキンソン病のげっ歯類の脳におけるSRY発現の妨害が、症状の重症度を改善することを示し、パーキンソン病の雄動物の運動能力の低下を防ぐこと、または緩和することを発見した。
つまり、パーキンソン病患者のニューロンのSRYの活動を抑制すると、症状が改善する可能性があることが分かった。
性別と脳
男性と女性の脳は、分子、細胞、および行動などあらゆるレベルで異なる。過去60年間、それは、性ホルモンに起因すると考えられていた。しかし、私たちは、遺伝子が直接的な影響も持っているかもしれないことを発見し始めている。
脳におけるSRYの効果は、男性と女性の脳の健康と病気が遺伝的に異なることを強く示しており、男性と女性の病気の診断と治療において性差を考慮する必要があることを忘れないで頂きたい。
ここまでです。
パーキンソン病を含めた認知症は誰にでも起こる可能性のある病気です。
私も50代半ばとなり、私の親世代だけでなく、自分自身も含めていつ発症してもおかしくありませんので、関心度の高いテーマの一つになっています。
それでは、もう一つ同じ研究テーマで、上の記事にも書いてあるように、先程の遺伝子からではなく、性ホルモンの違いを利用した治療法を研究している関連記事もご紹介したいと思います。
女性ホルモンはパーキンソン病の症状を改善する
☆対照のニューロン(上)およびパーキンソン病のように振る舞うエストロゲンを処理したマウスの顕微鏡写真。
エストロゲン治療により、エストロゲンのレベルが高くなり(緑色)、パーキンソン病の症状が軽減している。
クレジット:Rajsombath et al。JNeurosci 2019
ここからです。
JNeurosciで発表された新しい研究によると、脳選択的エストロゲン治療は、雄マウスのパーキンソン病の症状を改善することが分かった。この発見で、パーキンソン病の性差の説明に役立ち、エストロゲンベースの治療につながるかもしれない。
パーキンソン病は、運動に関与するニューロンの死が特徴的で、これはタンパク質α-シヌクレインの遺伝子変異によって部分的に引き起こされる可能性がある。変異した短いタンパク質はニューロン内で集団化し、その結果死に至る。しかし、長いタンパク質は、集団化に抵抗する。
エストロゲンは運動ニューロンをパーキンソン病から保護すると考えられているが、それがどのように作用しているのかは不明だ。男性および閉経後の女性はエストロゲンのレベルが低いため、パーキンソン病の影響を受けやすい。エストロゲン治療は患者の症状を遅らせる効果的な方法かもしれない。
ハーバード大学医学部のシルク・ヌーバー(Silke Nuber)らは、パーキンソン病のマウスモデルを脳選択的エストロゲンで治療し、治療前後の男性と女性の運動能力を比較した。すると、メスのマウスは年齢を重ねてもそれほど重度の症状を示しさなかったが、それでもエストロゲンは症状を改善していた。そしてオスのマウスでは、エストロゲン治療で、αシヌクレインの分解と蓄積を減少させるのを手伝い、重度な症状を緩和した。
これによって、エストロゲンレベルが低いパーキンソン病患者にとって、実行可能な治療選択肢が広がる可能がでてきた。
ここまでです。
今後もこれらの病気を研究していくことで原因を探り、近い将来治療法や予防法が解明されることを期待しています。