『最新!痛みのバケツ理論』
最近になって院内で紹介を始めた「痛みのバケツ理論」について書いていこうと思います。
バケツ理論といえば、アメリカの心理学者ドン・クリフトン氏が提唱しているバケツ理論が有名です。
「全ての人間は心に大きなバケツを抱えている。
そして、その中に水を溜めこみたいと思っている。
そのバケツに水がたくさん溜まれば人は幸せになり、
カラになればなるほど人は不幸になる」ーアメリカの心理学者ドン・クリフトンー
■ 痛みのバケツ理論
この他にもいくつかが有るようですが、これから私がお話する「痛みのバケツ理論」というのは、「痛み」を「痛み」として認知するまでのメカニズムをバケツを使って説明したものです。
つまり、人には「痛み」をためることができるバケツが有り、そのバケツから水があふれると「痛み」として認識されるというものです。
「痛み」が原因も無く突然起きることは無い
ところでみなさん「痛み」というのものは、ある日突然降って湧いたかのように現れると思われていませんか?
私の所にも、
「昨日までは何ともなかったのに、朝起きたら突然痛み出した」
「何をしたという覚えがないけど、痛くなった」
「何もしていないのに痛い」
のように報告されることが多いです。
痛みが起きた原因に心当たりがあるケースもあれば、まったく無いケースもあります。
でも実際の所、心当たりがある無しにかかわらず、あくまでそれはその症状を引き起こした原因そのものである可能性は低く、それが引き金になった可能性のほうが高いです。
なぜなら、人は何かが起こると、こじつけてでもその原因を特定したいという欲求があるからなのです。
そして、自分の中でこれが一番の原因だと思われるものを特定します。
こじつけであろうと無かろうと・・・。
それが合っているのか、それとも間違っているのかは問題では無く「その理由が自分が納得できるか、または出来ないか」で決めているのです。
【ぎっくり腰】を例に
【ぎっくり腰】ひどいときには、動くことさえできないほどの激痛に突然おそわれ、ひどい痛みは数日間続きます。
これも、そのぎっくり腰が起こる直前の動作に問題(例えば重い物を急に持ち上げてギクッとなったなど)があったと思われがちです。
しかしなぜそうなったのかを考えてみると、いつも同じ動作をしても今までなんともなかったものがその日だけ特別に起こったと考えるには、ちょっとムリがあるように思います。
実例を上げましょう。
「クシャミをした途端にぎっくり腰に」
「咳き込んだ時に、急にギクッと来て立てなくなった」
「クルマを車庫入れようとバックのため、からだを後ろに捻った途端・・・」
「玄関でクツひもを縛ろうとして、腰をかがめた瞬間に鋭い痛みが腰に来て・・・」
など、患者さんに「ぎっくり腰」になったその直前の動作を聞くと、上のような答えが返ってきます。
そんな事を普段してもまったく問題無く過ごしていたはずなのが、なぜかたまたまその時だけ・・・。
【ぎっくり腰】は起こるべくして起こった
なぜ「ぎっくり腰」になったのかハッキリいいましょう。
身体がガマンの限界を越えていたから。
ですので、私の考えとしては、ある特定の動作ひとつが原因だとは考えず、あくまでもその症状を引き起こした引き金(要因)と考えて頂く方が良いと思っています。
確かに本当の原因は一つなのかも知れませんが、それを引き起こす要因はたくさんあるのです。
なお、「痛み」そのものの原因を特定するのはそれほど難しいことではありません。
上の例で紹介したぎっくり腰の「痛みの(直接)原因」といえば、「腰部筋肉の炎症による痛み」となります。
ですので、炎症が治まれば痛みは無くなります。
ひどい【ぎっくり腰】を起こした場合の対処法
ぎっくり腰は捻挫です。
足首などを捻挫したときと同じ処置が必要です。
腰を触って熱を帯びている部位があれば、まずは湿布を貼り炎症を鎮めましょう。
やった直後からじわじわと炎症が広がりますので、痛みのピークは直後よりも1-2日遅れてやってきます。
ですので、直後よりも翌日の方がつらかったりします。
炎症が有る間はお風呂に入るのは避けて下さい。患部を冷やす事行ってください。
痛みのピークが過ぎれば徐々に炎症が鎮まってきているサイン。最低2-3日は安静にして悪化を防ぎましょう。
痛みがやわらいで来たら、ムリをしない程度に身体を動かす方が回復は早くなります。
■ 「バケツ」を想像してみてください
まえおきが長くなりました。
本題に入りましょう。
まず、頭の中でバケツを想像してみましょう。
このバケツの横には穴(排水口)があいています。
排水口からは管がつながり、直接下水管につながれています。
そしてそのバケツの上には、蛇口があり、ここから水が注がれています。
いずれバケツには水が溜まりますが、水が排水口に達すると、水が排水口を通ってバケツの外に流れ出ていきます。
なんとなく、想像できましたか?
※上のイラストのバケツには横の穴も排水管も見えませんが、
バケツの裏側に有ると想像してくださいね。
今、想像していただいたモノには意味がある
バケツの大きさ・形・穴の大きさ・蛇口と注ぎ込まれる水。
これらは何を意味しているのでしょうか?
① バケツの大きさや形は、あなたが産まれた時に授かったもので、一生このバケツの大きさ、形は変わることがありません。
② このバケツに溜められる水の量が、あなたが痛みなどに耐えられる能力です。
③ 蛇口から注がれる水は、日々生活を過ごす中で生まれる、負担や疲労(心と身体に対する)などです。生きている限りこの水を止める事はできませんが、水の量はコントロールする事ができます。
④ バケツの排水口(穴)の高さや大きさも人それぞれ。排水口がバケツのフチぎりぎりにあったり、真ん中くらいにあったりするなど位置も大きさも様々ですが、排水口の大きさは努力で維持することが出来るとします。なお、この排水口は、加齢と共に小さくなると言う特徴が有ります。
⑤ この排水口から流れ出る水の量が、あなたが現在持っている回復力になります。
⑥ バケツのフチからあふれた水があなたが感じる不快感や痛みです。あふれる水が多ければ強い痛みや不快感、少なければ違和感程度として感じます。
一生変えることが出来ないもの
一生変えることが出来ないモノがあります。
① バケツの大きさと形
② 排水口(バケツの穴)の位置
あなたの努力で変えることができるもの
あなたの努力次第で変えることが出来るモノ。
① 蛇口から注がれる水の量
(蛇口をひねって水をコントロールできる)
② 排水口の大きさ
(排水口は、手入れをしないとゴミが溜まり水の流れが悪くなる)
このシステムを身体に置き換えてみましょう。
この簡単なシステムを私たちの身体に置き換えてみてます。
疲労、痛みなどに耐える(溜める)事ができる能力すなわち耐力(体力)は、基本的に産まれた時から変えることは出来ません。
しかし、人間には(人間だけでなく生物全体ですね)回復力が備わっています。
この回復力は排出口の大きさや位置により人それぞれ違いますが、排出口を手入れすることで、回復力を保つ事が可能になります。
蛇口から水が注がれていますが、この水に相当するのが負担つまり疲労などです。
この絶え間ない負担は、あなたが日々過ごしている生活習慣(生活や労働、運動、ストレスなど)ですね。
この生活習慣を改める事で、水の量をある程度はコントロールする事が可能になります。
しかし、生きている限り注がれる疲労を止める事は出来ません。
そこで、水がある一定以上溜まらないよう(疲労が蓄積しないように)するためには、排出口から水(疲労)を流して、常に水を一定量以下に保つ(抑える)事が重要になってきます。さらに、排水口にゴミが溜まって排水(疲労)が出来なくなるのを防がなければ、水(疲労)があふれてしまいますね。
あふれてしまえば、痛みを感じる事になってしまいます。
これで痛みが急に起こったわけでは無いことが理解出来ますよね。
そう、これが痛みを感じる基本的なシステムです。
■ 痛みがつづくシステム
痛みが続くのはどうしてなの?
では、なぜ痛みが続くのでしょうか?
まず、バケツのフチ付近にある排水口ですが、この排水口は普段の習慣や加齢によって若干ですが、穴の大きさが変化することがあります。それに加えて、排水口の手入れ(掃除)を怠るとゴミが詰まり穴がふさがってしまうこともあります。
~ 排出口が変化する追加条件 ~
① 生活習慣などによって多少穴の大きさが変化(大きくなることも小さくなることも)する。
② 穴が小さくなるのは加齢による要因が大きいが、良い生活習慣で遅らせることは出来る。
③ 健康に留意する事で、穴の大きさを少しだけ大きくすることも可能
④ 普段の手入れを怠るとゴミが溜まり流れが悪くなります。つまり、悪い習慣が続くと穴も小さくなり、それに加えてゴミが溜まり、流れが悪くなるといった悪循環も起こります
バケツは流し台の上に置かれている
排水口にホースが取り付けてありますが、このホースからはバケツに溜まった水がホースを伝って下水道へ流れていくことにします。
さらに、バケツはイラストのような流し台に置いてあるとしましょう。
流し台にも当たり前ですが、排水口がありこちらからも水が下水道へ流れ出ていきます。想像できましたか?
この流し台は、バケツからあふれた水を受け止める機能があります。この流し台にも水を溜める能力があります。先程、バケツからあふれた水が【痛み】として感じると話しましたね。
このシステムでは、そのあふれた水が流し台に触れたときに【痛み】を感じるとします。
つまり流し台がセンサーの役目をしているという事ですね。
~ 流し台の意味は? ~
① 流し台は【痛み】を感じるセンサーであり、【痛み】を溜める働きがある。
② バケツから流し台に水がこぼれると、それが【痛み】として感じられる
③ あふれた水の量が少なければ、感じなかったり、気にならない程度。回復も速い。
④ 流し台に水が溜まると、いつでも【痛い】、さらに【痛み】も強くなる
⑤ バケツからあふれる水が止まらない限り【痛む】
⑥ 【 痛み】は流し台に水が有る限り【痛み】続ける
これが「痛み」がすぐに消えないシステムなのです。
まとめ
私たちが出来ることは、バケツに注ぎ込まれる水、すなわち 体・精神への負担をコントロールすること、 バケツの排水口の穴を出来るだけ大きくかつきれいに保つ事 、すなわち【身体の回復力の質の向上と維持】が非常に重要だと言うことが分かりますよね。
ですから、痛みが無くなったらそれで終わりではなく、今度はその 痛みが再発しないように、健康の維持、不調の早期解決と潜在的な不調の発見、をすることがとても大事 になるのです。
それが当院で検診を継続していただく最大の理由なのです。
※初掲「いやさか通信」2017年6月~8月号より(一部追加・訂正あり)