真夏の暑さが骨を強く丈夫にし骨粗しょう症を防ぐことがわかった
温度が32℃以上の環境に置かれたマウスは、骨量が増え丈夫になり、骨粗しょう症を防ぐことが分かったという研究報告が最近発表されました。
また、その環境に置かれたマウスの腸内細菌を別の骨粗しょう症マウスに移植したところ骨量が増え、骨粗しょう症が治ったそうです。
温度が腸内に住む微生物たちの生活環境に大きな影響を与えるのではないか、というのは、なんとなく想像できますね。
ただ、人間の場合には住む地域により食生活(文化)なども異なりますので、単純ではないのも事実ですが。
ちなみに、人の体温は37度近くが一般的ですが、その体温が年々低くなっているという内容の記事を以前書いたことがあります。
・私たちの体温は着実に低温化している(2020/01/20)
私たちの体温は着実に低温化している
体温は免疫力とも関係し、免疫力は腸内細菌叢に大きく左右されます。
その腸内細菌は私たちの体温にも関与しているのです。
つまり、すべてはつながっているということを忘れてはいけませんね。
それでは本題の記事です。
熱と微生物のおかげで骨が丈夫になる
・Stronger bones thanks to heat and microbiota
Medical Express(2020/09/11)
ここからです。
骨粗しょう症は、加齢と連動した骨の病気で、骨密度の低下、骨の微細構造の劣化、骨折のリスクの増加が特徴だ。閉経後の女性の3分の1が罹患しており、公衆衛生上の大きな問題となっている。
スイスのジュネーブ大学(UNIGE)の研究チームは、疫学分析、実験室における実験、および最先端のメタゲノムおよびメタボロミクスツールを用いて、より暖かい周囲温度(34°C)への曝露が骨の強度を高める一方、骨粗しょう症に典型的な骨密度の低下を防ぐことを観察した。
さらに、この現象は、熱によって腸内細菌叢の組成が変化することと関連しており、暖かい環境で生活しているマウスの腸内細菌叢を、骨粗しょう症のマウスに移植することによって再現することができた。
実際、移植後のマウスの骨は丈夫で緻密になっていた。
これらの結果は、学術誌 Cell Metabolismで発見されたことで、骨粗しょう症の予防や治療のための効果的で革新的な介入を想像させることが可能になった。
多くの生物学者は、19世紀の自然学者ジョエル・アサフ・アレン(Joel Asaph Allen)の「アレンの法則」を良く知っている。これによると、暖かい地域に住んでいる動物は、寒い地域に住む動物よりも、体の体積に対して皮膚の表面積が大きいということだ。
実際、皮膚表面積が大きい方が、体温をうまく逃すことが出来る。
「ある実験では、生まれたばかりのマウスを34℃の温度に置いて、出産に伴うヒートショックを最小限に抑えるようにしました。骨の成長が周囲温度によって影響を受けることを確認すると、彼らはより長く、より強い骨を持っていたことがわかりまりました。」
と、UNIGE医学部のミルコ・トライコフスキー(Mirko Trajkovski)教授は述べた。
それでは、成人期はどうだろうか?
一貫した疫学データ
いくつかの成体マウスグループを暖かい環境に置くことで、骨のサイズは変わらないが、骨の強度と密度が大幅に改善されていることが観察された。
その後、閉経後の骨粗しょう症をモデル化した卵巣摘出後のマウスを用いて実験を繰り返した。
「その効果は非常に興味深いものでした。マウスの生活環境を暖めるという単純な事実が、骨粗しょう症の典型的な骨量減少からマウスを保護したのですから!」
と、この研究の最初の著者であるクレア・シュヴァリエ(Claire Chevalier)は言う。
では人間ではどうなのか?
研究チームは、平均気温、緯度、カルシウム消費量、ビタミンDレベルに関連した骨粗しょう症の発生率に関する世界的な疫学データを分析した。
興味深いことに、気温が高いほど、他の要因に関係なく、骨粗しょう症の主な結果の1つである股関節骨折が少ないことを発見した。
「我々は、地理的緯度と股関節骨折の間に明確な相関関係を発見しました。つまりこれは、北部の国々では、温暖な南部と比較して股関節骨折の発生率が高いということです。」
「ビタミンDやカルシウムなどの既知の因子の分析を正規化しても、この相関関係は変化しませんでした。しかし、決定因子とされる気温を除外すると、相関関係が失われました。これは、カルシウムやビタミンDが単独でも組み合わせても役割を果たさないということではありません。しかし、決定的な要因は熱またはその欠如であるということです。」
とトライコフスキー教授は述べている。
微生物叢はどのように適応するのか
微生物叢の専門家であるジュネーブの科学者は、これらの代謝変化におけるその役割を理解したいと考えていた。
この目的のために、34℃°の環境で生活しているマウスの微生物叢を骨粗しょう症マウスに移植したところ、骨の質が急速に改善された。
「これらの知見は、アレンの法則の延長線上にあると考えられ、温熱の伸長に依存しないことが示唆されます。これは、成人期の骨密度と強度は、微生物叢の変化によって優勢になります。」
と、トライコフスキー教授は述べている。
研究室で開発された最先端のメタゲノムツールのおかげで、科学者は微生物叢が果たす役割を理解することに成功した。
熱に順応すると、老化、特に骨の健康に関与する分子であるポリアミンの合成と分解が阻害される。
「熱によって、ポリアミンの合成は増加しますが、分解量は減少します。そのため、骨芽細胞(骨を作る細胞)の活動に影響を与え、破骨細胞(骨を分解する細胞)の数を減らしてしまうのです。年齢や閉経期になると、破骨細胞と骨芽細胞の活動の絶妙なバランスが崩れます。」
「しかし、熱はポリアミンに作用することで、微生物叢によって部分的に制御されていることがわかりました。これら二つの細胞グループ間のバランスを維持することができるのです。」
とクレア・シュヴァリエ氏は説明する。
したがって、これらのデータは、温熱の曝露が骨粗しょう症に対する予防戦略になる可能性を示している。
新しい治療法の開発
代謝に対する微生物叢の影響は、よりよく理解されつつある。しかし、この知識を治療戦略の開発に利用するためには、科学者は特定の疾患における特定の細菌の役割を正確に特定する必要がある。
トライコフスキー教授のチームは、この骨粗しょう症に関する研究のなかで、特定の重要な細菌を見付けることができた。
「我々は分析をさらに改善する必要がありますが、比較的短期的な目標は、候補となる細菌を特定し、骨粗しょう症などの代謝・骨疾患を治療するだけでなく、たとえばインスリン感受性を改善するためのいくつかの『細菌カクテル』を開発することです。」
と著者らは結論付けている。
ここまでです。
アレンの法則を唱えたジョエル・アレンという人は、こんな人のようです。
ジョエル・アサフ・アレン(Joel Asaph Allen、1838年7月19日 – 1921年8月29日)は、アメリカ合衆国の動物学者である。アメリカ自然史博物館の最初の動物部門の学芸員、アメリカ鳥学会の初代会長などを務めた。「恒温動物において、同じ種の個体、あるいは近縁のものでは、寒冷な地域に生息するものほど、耳、吻、首、足、尾などの突出部が短くなる」という、アレンの法則を唱えたことで知られる。
日本でも温暖な地域と寒冷な地域による差があるのか過去の記事をザッと調べてみました。
すると、意外にもむしろ東北地域の方が沖縄などの温暖な地域に比べて股関節の骨折率は低いという報道が見つかりました。
「骨折発生率は「西高東低」 最大2倍差、食も影響? 40歳以上調査」
高齢者に多い「大腿骨近位部骨折」について、近畿大や大阪医大の研究グループが人口10万人当たりの発生率を都道府県別に調べた結果、中部から関西、九州など西日本で高い傾向がみられることが分かった。都道府県の最大差は約2倍。
研究グループは明確な要因は不明としながら「食生活が影響している可能性もある」との見方を示している。
全国平均を100とすると、患者が多い女性の場合、最高は兵庫の120。次いで和歌山と沖縄(118)、奈良と大分(116)だった。一方、男性で最も発生率が高いのは沖縄の144。和歌山と長崎(126)、佐賀(124)、兵庫と鳥取(121)が続いた。
これに対し男女とも低いのは秋田(男性63、女性65)、青森(男性65、女性68)、岩手(男性70、女性68)、宮城(男性73、女性71)、北海道(男性78、女性75)。主に関西や九州で100以上、東北や北海道で100未満となる「西高東低」の傾向が確認された。最も低い秋田の男性と、最高値だった沖縄の男性では2.3倍近い開きがあった。
(日経新聞 2017/10/17)
朝日新聞でも、食習慣の中で「納豆」が影響しているかも知れない、という意見が書かれていました。
私たちが暮らしているのは、実験室のような単純な環境ではありません。
なので、いろいろな要因を考える必要はありそうです。
個人的には、暖かい地域で暮らしたいと以前から思っていましたので、骨の健康のためにも南国暮らしを後押しする良い理由が見つかったな、と思いました。
なんと言っても私の家族は全員冬嫌いで、特に私と下の娘は最低気温(最高気温ではないことに注意!)が20度以下は「冬」だよね、という意見では一致しています。
なので、ここ最近の気温だと私たちの体感ではすっかり冬です。
あ~、早く夏が来ないかなあ・・・。