変形性関節症はなぜ突然悪化するのか?
前回の記事では、関節炎の原因・種類・症状・診断・治療・合併症について書きました。
・関節炎の最新の事実:2020 (2020/09/28)
関節炎の最新の事実:2020
この記事内でも書いてありますが、関節炎は大きくはリウマチと変形性関節症の2種類あります。
この中でも、特に変形性関節症は、私たちのような整体院でも相談を受ける機会が非常に多いのが特徴です。
大半は高齢の方であり、特に女性の膝関節症は男性の4倍も多く発症することが分かっています。
ごくたまに10代後半から20代くらいの若い人にでも起きることもあります。
高齢の方に発症のきっかけを聞くと、ほとんど中高年の頃に思い当たるフシがありそうなので、巷で良く言われるような加齢だけの問題ではなさそうです。
特に、変形性膝関節症は、他の関節症よりも発症するリスクが高いといえるでしょう。
若いときに強く膝を打ちつけた経験がある人は、今まったく自覚が無かったとしても、その後発症するリスクを少なからず持っていますので、注意された方がいいと思います。
急に痛みが起こったとしても、それは長い時間かけて症状を起こしたものであり、疲労等の負担が蓄積されたところに、何かのきっかけによって起こります。
なぜ高齢者に関節症が多いのかは、こちらの記事を読んでみてください。
・『なぜ今まで良くならなかったのか?』関節痛編(2018/06/28)
『なぜ今まで良くならなかったのか?』関節痛編
また若い人(特に女の子)は、真冬でも膝をずっと寒風にさらし続けられているので、彼女たちの将来は心配ですね・・・。
なぜかというと、膝を冷やし続けることになりますし、膝を何かにぶつける機会もきっと多いと思います。ですので、彼女達が高齢に近づく頃に膝痛を起こす可能性は高いでしょう。さらに女性ホルモンの減少によって骨がもろくなる骨粗しょう症や筋肉の弱体化による問題もあります。
なので、夏はともかく冬には本当はあまり膝を外気に触れさせないほうが良いのですが。
ファッションのことでもありますし、まぁ無理でしょうねぇ。
それでは、今回は、変形性膝関節症の痛みに関しての記事を二つ紹介したいと思います。
調査報告:変形性膝関節症の人がさまざまな種類の痛みを経験する理由
・Study: Why people with knee osteoarthritis experience different kinds of pain
Medical Express(2020/09/05)
ここからです。
変形性関節症は、世界中で最も一般的な関節炎であり、3億人以上が人々に影響を与えている。それは、患者に実質的な痛み、機能制限および障害を引き起こす。
変形性膝関節症患者の痛みの経験は、時間とともに変化する。人々は最初、ジョギングや階段昇降など、主に体重負荷に関する痛みを経験する。時間が経つにつれ、痛みはより持続的になり、予測できずに突然悪化する。
このような変化が起こる理由をさらに理解するために、ボストン大学医学部(BUSM)と公衆衛生学の研究者は、変形性膝関節症をもつ、またはそのリスクのある、2,794人の高齢者の痛みの経験に関するデータを再検討した。
彼らは、より多くの痛みに感作された人々は、単に断続的な痛みだけでなく、常に予測できない疼痛に苦しむ可能性が高いことを発見した。
感作(かんさ、Sensitization)とは、繰り返される刺激によって、それに対しての反応が徐々に増大していく非連合学習プロセスである。感作はしばしば、反復刺激であるというだけではなく、刺激のグループ全体に対しての応答強化として特徴付けられる。たとえば痛みを伴う刺激が繰り返されると、騒音に対してより敏感に受け取るようになるようなことである。
・Wikipedia より
この研究で、人々が変形性膝関節症でさまざまな痛みのパターンを経験する理由の原因となる、神経系の潜在的な基礎となるメカニズムを初めて特定した。
「私たちの調査結果は、変形性膝関節症の痛みの経験に影響を与える神経生物学的メカニズムの臨床的関連性をサポートします。これには、痛みの重症度だけでなく、痛みが断続的であるか、一定であるか、または予測不可能であるかどうかも含まれています。」
と、ボストン大学医学部のテュハイナ・ネオジ(Tuhina Neogi)博士は述べている。
変形性膝関節症の痛みの経験に寄与するさまざまなメカニズムを理解することにより、医療従事者は、各患者の痛みの管理を個別化し始めることができる。
たとえば、患者が痛みを感じている場合、それらの神経系シグナル伝達経路を変更させることができる治療法が有用となる。これにより、各患者は同じ治療法から開始され、最初のアプローチが機能しなかった場合は、別の方法に移行するという、現在の万能アプローチ(だれにでも合う)方法を改善することになるだろう。
「これらのメカニズムを理解し、臨床でこれらのメカニズムを特定する方法を決定し、それらのメカニズムを標的とした治療法を開発することで、世界中の何百万人もの関節症の患者に、より良い管理の選択肢を提供できるでしょう。」とのネオジ博士は述べた。
これらの知見は、Arthritis Care & Research誌にオンラインで掲載されている。
ここまでです。
この記事を読んでも読者が知りたい肝心な部分が良く分からないのではないかなぁ・・・と感じました。
しかし、重要な箇所はここに書いてあります。
より多くの痛みに感作された人々は、単に断続的な痛みだけでなく、常に予測できない疼痛に苦しむ可能性が高いことを発見した。
そんな事は経験している人は良く分かっているだろう、といった声が聞こえてきそうです。
大事な部分は『より多くの痛みに感作された人々は、疼痛に苦しむ可能性が高い』
ということ。
もう一度繰り返しましょう。
『より多くの痛みに感作された人は、疼痛に苦しむ可能性が高い。』
です。
つまり、慢性的に痛みを経験した人はさらに痛みに敏感になる、という悪循環を経験する事になるということです。
痛みを脳が学習し、身体はそれに反応することで脳は記憶を強化していき、次第に過剰に反応するよう変化していくのです。
このことに関連して、さらに調べましたら過去の記事が見つかりましたので、もう一つ紹介してみようと思います。
睡眠不足、否定的な態度は変形性膝関節症の痛みを増幅させる
・Poor sleep, negative attitude amplify pain in knee osteoarthritis
Medical Express(2015/06/04)
ここからです。
新しい研究では、睡眠習慣が悪い膝変形性関節症(OA)の患者は、より大きな中枢性感作、つまり臨床的な痛みの増幅を示すことが報告されている。
Arthritis Care&Research誌に発表された調査結果は、痛みの思考に振り回されたOA患者は、より大きな臨床的痛みに関連する、中枢性感作を増加させたことを示している。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、OA(手、股関節、または膝の関節の痛みと腫れを引き起こす変形性関節症)は、25歳以上のアメリカ人約2,700万人が罹患している。
さらに、高齢者の約3分の1が膝関節症を患っており、これが世界的な痛みと障害の主要な原因であることを示唆している。
研究者は、痛みに対する過敏症である中枢性感作が、OAにおける臨床的な痛みの増幅に寄与している可能性があると考えている。
「私たちの研究は、膝OAにおける睡眠障害、カストロフィー化における中枢性感作の関係についての、最大かつ最も包括的な調査です。」
訳注:カタストロフィー化とは
自分の抱える痛みに関して、どうすることも出来ない無力感や痛みの拡大や蓄積のために、痛みに関する思考を何度も繰り返してしまうことが特徴で、持続的に否定的な認知感情を持ってしまうこと。
と、ジョンズホプキンス大学医学部の精神医学・行動科学科のクローディア・キャンベル(Claudia Campbell)博士は述べている。
今回の症例対照研究では、208名の参加者を4つのグループに分けた。
不眠症を有するOA患者、正常な睡眠習慣のOA患者、不眠症を有する健常対照者、疼痛症候も無くさらに正常な睡眠習慣の健康的な対照群に分けた。参加者の72%は女性だった。
参加者には、睡眠評価、心理的・疼痛評価、感応検査を受けてもらった。
結果は、不眠症を有するOA患者の被験者が対照群と比較して、中枢性感作の程度が最も高かったことを示していた。
チームは、睡眠不足でカタストロフィー化スコアが高い患者では、中枢性感作のレベルが上昇していることを報告した。さらに、中枢性感作は臨床的疼痛の増加と有意に関連していた。
「この研究から因果関係を特定することはできませんが、私たちのデータは、睡眠効率が低く、カタストロフィー性の高い人が中心感作が最も大きいことを示唆しています。睡眠、中枢性感作、およびカタストロフィー性の複雑な関係を理解することは、膝OAなどの慢性疼痛疾患を持つ患者の治療に重要な臨床的な意味を持ちます。」
とキャンベル博士は結論づけている。
この記事の引用元は、Arthritis Care & Research誌に掲載されています。
ここまでです。
ここに痛みのコントロールのヒントが隠されているようです。
また、痛みが痛みを作り出すという悪循環は、さらにうつ病にも発展して行く事になります。
・痛みはうつ病を引き起こし、うつ病は痛みを引き起こす(2020/09/11)
痛みはうつ病を引き起こし、うつ病は痛みを引き起こす
そして、痛みというのはとても厄介な問題なのです。
・『痛みは脳が「作りだす」』~病名を付けられるとそのように振る舞う~(2018/08/20)
『痛みは脳が「作りだす」』~病名を付けられるとそのように振る舞う~
心あたりないですか?